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横浜地方裁判所 平成5年(わ)1165号 判決

被告人の表示

(一)

法人の名称 株式会社森工業

本店所在地

横浜市西区南幸二丁目九番三号 アネックス横浜二一五号

代表者の住居

横浜市保土ヶ谷区霞台二八番二二号

代表者の氏名

森司

(二)

氏名 森司

年令

五〇歳(昭和一九年一月二四日生)

職業

会社役員

本籍

横浜市保土ヶ谷区霞台九二番地の三

住居

右同所 二八番地二二号

主文

1  被告人会社を罰金四五〇〇万円に、被告人森を懲役一年六か月に、それぞれ処する。

2  被告人森に対し、この裁判確定の日から三年間刑の執行を猶予する。

理由

(認定犯罪事実)

被告人会社株式会社森工業は、横浜市西区南幸二丁目九番三号アネックス横浜二一五号に本店を置き、左官等の業務を営むものであり、被告人森司は、被告人会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものである。

被告人森司は、被告人会社の業務に関して、法人税を免れようと企て、架空の外注費等を計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿したうえ、

第一  平成元年分の実際の総所得が八八、七七五、〇九六円(別紙1修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成元年八月一日横浜市中区山下町三七番九号所在の所轄横浜中税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が七、六二〇、六八七円で、これに対する法人税額が二、二〇二、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成五年押第三五二号の3)を提出してそのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の法人税額三六、二四一、五〇〇円と右申告額との差額三四、〇三九、五〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成二年分の実際の総所得が一四三、二五三、八一一円(別紙3修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成二年七月三〇日、前記所轄横浜中税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が一三、五六五、四九七円で、これに対する法人税額が、四、四八九、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書

(平成五年押第三五二号の2)を提出してそのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の法人税額五六、三六四、九〇〇円と右申告額との差額五一、八七五、二〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成三年分の実際の総所得が二七六、一五五、八〇三円(別紙5修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成三年七月三〇日、前記所轄横浜中税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が一七、九四二、六三八円で、これに対する法人税額が、五、七〇〇、五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成五年押第三五二号の1)を提出してそのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の法人税額一〇二、五三〇、三〇〇円と右申告額との差額九六、八二九、八〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠)

判示全部の事実について

1  被告人の公判供述

2  被告人の検察官に対する供述調書

3  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書二通

4  証人森郁子の公判供述

5  検察事務官作成の電話聴取書

6  法人税確定申告書三通(平成五年押第三五二号の1ないし3)、法人税修正申告書(同押号の4)、ノート二冊、工事台帳一袋(同押号の567)

7  大蔵事務官作成の脱税額計算書三通、法人税額計算書三通、賃金調査書、外注費調査書、給料手当調査書、旅費交通費調査書、交際接待費調査書、賃借料調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、事業税認定損調査書、検査てん末書四通、報告書

8  森郁子(一一通)、松浦正男(二通)、大塚陽一(二通)、高橋勉、広瀬司郎、清水和子、林恵子の大蔵事務官に対する質問てん末書

9  森郁子、宮本雅司の検察官に対する供述調書

10  登記簿謄本

(事実認定の補足説明)

弁護人は、受取利息の内、相当額のものが被告人会社ではなく個人に帰属する、外注費の実支払い額は検察官主張よりも合計一億五七〇〇円余り多く、簿外経費も合計一億三九〇〇万円余り多い旨主張している。

しかしながら、前掲各証拠に基づいて検討すると、被告人の自白のほか、被告人会社の経理担当者であった森郁子を含む関係者の供述調書及び各調査書等によれば、外注費等の実額及び利息の帰属はいずれも検察官主張のとおりであるうえ、本件の脱税については、事前に、合計事務所の職員に伝票、帳簿等により収支等の試算表を作成させてこれに検討を加えたうえで行われているところ、そのように作成された試算表に大幅な、時には約一億七〇〇〇万円も計上されていた利益が損失に転じる程の外注費を上乗せする修正を施すなどして過少の申告をしていること、外注費、簿外経費、受取利息のいずれの点についても、捜査段階では右森郁子等に、前記ノートも含めて伝票、帳簿、通帳等を点検、検討させ、その仕分け、指摘を受けて、自認する供述内容に限定を加えて帰属を確認し、金額を計上しており、その過程に不合理な点は窺えないこと、また、弁護人の外注費及び簿外経費実額の主張の前提とされたノートの記載は、検察官指摘のように架空の記載が含まれていることを被告人側でも自認している工事台帳の記載金額とほぼ符合していること、簿外経費とは無関係なものも相当額含まれていることが明らかであるなどの問題があること、森郁子の証言にも不自然で合理性に欠ける点があること、受取利息については、弁護人からは、何ら具体的な主張、立証がなされていないことなどの事情が認められる。

これらの事情を考え併せれば、判示犯罪事実は充分に認定することができ、弁護人の主張はいずれも採用しえないというべきである。

(適用法令)

1  該当罰条

判示行為 被告人会社 法人税法一六四条一項、一五九条

被告人 森 法人税法一五九条

2  刑種の選択 被告人森につき懲役刑

3  刑の執行猶予 被告人森につき刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、その脱税の金額が一億八二〇〇万円余りと多額である上、その脱税率も九三パーセントと高く、その手口も前記のように巧妙かつ悪質であり、動機も利己的なもので、その刑事責任は重いというべきであるが、被告人会社は本件の査察終了後に国税局指摘のとおり修正申告をして、本税全額を納付し、重加算税六四〇〇万円余りも分割して納付していること、申告等の処理について税理士を変えてその指導を受け、今後問題の生じないように体制を整えるなどして、反省の態度が見られること、被告人森は、難病を患っており、体調もよくないことなどの被告人らに有利な事情も認められるので、これらの事情を考え併せると、主文のとおりの刑に処したうえ、被告人森については、その刑の執行を猶予するのが相当と判断した。

(公判出席) 検察官検事 藤宗和香

私選弁護人 徳江義典

(求刑) 被告人会社 罰金六〇〇〇万円

被告人 森 懲役一年六月

(裁判官 廣瀬健二)

別紙1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

〈省略〉

別紙3

修正損益計算書

〈省略〉

別紙4

〈省略〉

別紙5

修正損益計算書

〈省略〉

別紙6

〈省略〉

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